地域の資源を循環させて、新しい産業そして地域の未来をつくっていく/有限会社きたもっく土屋慶一郎さん

3次産業があるからこその1次、2次化

北軽井沢の広大な土地に広がるキャンプ場や個性的なコテージ。「有限会社きたもっく」は、30年前にキャンプ場の事業から始まりました。そこから山林を取得して薪の加工販売や、薪ストーブの施工販売、養蜂事業など、3次産業から始まり、2次、1次と展開してきました。これらの企画を生み出し、自ら旗を振って事業を進めてきたのが代表の福嶋誠さん。そして規模が拡大してきた「きたもっく」に8年前に加わり、組織化や社内外への発信などを担っているのが、土屋慶一郎さんです。「きたもっく」では、事業を「地域未来創造事業」と位置づけ、北軽井沢の浅間山北麓の地域の未来を、地域資源で循環する産業を通して創り出していきたいと考えています。

最初の10年は事業を形にするフェーズ

そもそものはじまりは、30年前に30代後半で地元に戻ってきた代表の福嶋さんが相続で約3万坪の荒涼とした土地を取得したこと。この地で何をするかを約半年かけて考えるなかで、この土地がもつ自然の豊かさと厳しさを感じ、これを多くの人にシェアをしたいと1994年にキャンプ場「北軽井沢スウィートグラス」 をスタートさせました。そして10数年後にようやくキャンプ場事業がまわり始めた頃、もう一段事業を深めようと考えるようになりました。そして、冬期のキャンプ事業も開始。それを後押ししたのは、開業当初から少しずつ増やしてきたオリジナル設計のコテージ。冬期事業を始める頃には20棟ほどになっていました。現在は52棟まで増え、キャンプ場全体で年間の利用者が10万人を越す、全国で3本の指に入るほどに成長しています。

地域の資源を活用していく

冬の事業を開始する際に、コテージで快適に過ごしてほしいと薪ストーブを仕入れ、全棟に自分たちで施工を行いました。この経験により施工ノウハウが蓄積し、そして火のある暮らしの豊かさを再発見したことから薪ストーブの施工販売を開始します。実はこの頃に会社に大きな転換を迎えました。2004年に浅間山が中規模爆発をしました。その際に代表は、「ここまで苦労して積み上げてきたものが、もしかしたらゼロになるかもしれない」という恐怖を感じ、そこから自然と人間の関係性について考え始めます。そこで出会った言葉が、フィンランド語で「自然に従う生き方」という意味の「LUOMU(ルオム)」。そして、自分たちの土地だけではなく、この浅間山北麓という地域全体について考えるようになりました。薪ストーブを置いた火のある暮らしというのは、この地域のように寒さが強い中山間地域だからこそできる豊かな暮らし。だからこそこの地域にその豊かな暮らしを提案したいと考えました。

次に薪ストーブを販売していくなかでうまれた課題が、いい薪が手に入りづらいということ。そこで、山主さんから山を借りて、自分たちで木を伐採して薪の生産を開始しました。この辺りの多くは広葉樹で扱いが難しく、特に木の乾燥に苦労したと言います。1年半の研究開発を経て、薪の乾燥室をつくり、薪事業を開始しました。その後、山主さんからの勧めで、240haの山を取得しました。林業というのは、どうしても何十年という長期スパンで考える事業になりますが、会社は社員が60名、パートなどを含めると120名の規模に拡大しており、サステナブルな経営のためには単年度の利益が必要となります。そこで、社内で話し合いを行い、「山の価値は木材だけではなく、そこ咲いている草花、そしてそこから取れ蜜にもある」ということで、養蜂をやりたいという熱意のある社員のもと、5箱の巣箱から養蜂事業が2019年にスタートしました。それから5年経ち、10箇所の圃場で、240箱の巣箱、年間4トンの生産規模まで拡大しました。最近では地域の企業と共同で、蜂蜜酒やタレなどを開発しています。

2020年には、新しい3次産業として、企業向けの研修施設として火を囲む「TAKIVIVA」をオープンしました。キャンプ場では家族の再生をテーマに場づくりを行なってきたことを生かし、今度は企業の中でみんなが同じ方向を向き、本音で話す関係性を築くのに焚火を真ん中に置けばいいのではというアイデアから生まれました。

地域の未来をつくるために新しい産業を生み出していく

キャンプ場から始まった「きたもっく」は、地域の資源を循環させて活用する薪の生産・販売、薪ストーブの施工・販売、養蜂などを経て、この数年前は地域の未来のために新しい産業をつくることを目指しています。最近は有機農業にも目を向け、そのための土作り、堆肥づくりから始めています。そして限界集落の再生も。ミツバチが好む自然が豊かな場所が限界集落になっていることに目を向け、代表は「その限界集落が持っている素晴らしい資産を活用しないと、衰退が進んで人が立ち入らない場所になってしまうが、それは勿体ない。5−10年という長い時間軸の中で、限界集落で有機農業を行い、オフグリッドなども取り入れながら、それらに興味関心のある移住者を増やしていく仕掛けをつくり、コミュニティをつくれたら。今まで培ってきたものを生かしてチャレンジできると考えている」と、話します。

最後に土屋さんは、「地域の未来のために、その地域特有の新作業をつくりたい。そのためには、既成概念を壊し、地域のなかで農業、観光、林業、福祉、教育などさまざまな分野を横串でさして、まだ名もない新しい産業を生み出していく必要がある。そしてその地域に住んで、地域に根ざした事業を行なっている人たちの力で、長いスパンで地域の未来を変えていくという活動が全国で実体化していけば。自分たちの取り組みがその機運を作るなど、一翼を担うことが出来たら」と話してくれました。