地域の重要な資源である「75歳以上の人材」が働ける仕組みを全国へ/うきはの宝株式会社代表取締役大熊充さん

自分の人生を助けてくれた「ばあちゃん」に恩返しを

全国的に高齢化や人手不足が進み、定年退職後も働き続ける人が増加していますが、75歳を過ぎると企業の求人は激減します。この問題点に気づいて、福岡県南部にあるうきは市で「うきはの宝株式会社」を立ち上げたのは、大熊充さん。75歳以上の高齢者と地域の農産物を加工して、道の駅やウェブショップで販売を行っています。2021年には地域の「ばあちゃん」がつくる無添加の万能調味料をリターンにクラウドファンディングを行い、400万円以上を集めました。

大熊さんが「ばあちゃん」と事業を始めた理由は、大きな事故の後に送った約4年間の入院生活中に、人生を悲観していた自分を救ってくれたばあちゃん達に恩返しをするため。6、7年前にデザインの仕事をしながら若者が地域の高齢者の困りごとを解決するボランティアを始めました。無料のシェアライドなどさまざまな取り組みを行ってきたなかで、高齢者の話から3つの課題が見えてきました。い高齢者にはさまざまな手助けが必要なことはいままでのボランティア事業でサポートできますが、、年金だけでは生活が苦しいことや孤立は難しい課題です。ここから、高齢者に向けてのボランティアではなく、高齢者と「協働」する事業にシフトしました。

1歩ずつお互いの理解を通して進めてきた事業

最初の事業は、「ばあちゃん」の手料理が食べられる食堂の運営でした。働くことで収入を得ることができ、働きに来ることでコミュニケーションが生まれ孤独が解消されます。ただコロナ禍になり食堂が開けられなくなりました。そこで、働いている「ばあちゃん」の知恵をいかした無添加の万能調味料を開発し、クラウドファンディングを行いました。現在は、調味料以外にも地域の農産品を使用したスイーツやおやつなどの焼き菓子を作り、自社のウェブショップや道の駅などで販売しています。

75歳以上の方々とは働く上で大事にしていることは、無理をしないシフト作り。体調に応じて無理なく働ける仕組みをつくっています。当初は、シフト作りを対面や電話で行い、連絡がなく休んだ場合には家まで様子を見に行くなどの労力もかかりましたが、スマホを持つ人が増えてLINEグループでシフト調整などができるようになり、だいぶ楽になったと言います。そのほか新商品の開発でも、定番商品を作りたい大熊さんと、旬なものを食べてもらいたいばあちゃん達との意見の相違など難しいことはたくさんあると言います。それでも1つずつ事業として何が必要なのかを丁寧に説明し、時には議論をして一歩ずつ前に進めて来ました。いま共に働いているばあちゃん達は、この大熊さんの志を応援するため、そして元気のない高齢者に自分たちが生き生きと働く姿を見せるために集まってきました。

高齢者と働く仕組みが全国へ

大熊さんの元には、地域の重要な資源である高齢者という人材をいかすべく、全国の自治体や企業などから相談が来ています。全国で少しずつこの取り組みが広まり、現在は75歳以上の高齢者約80名の雇用を生み出しました。「3年後には500名の雇用を生み出したい。高齢者というと、サポートされる側であり、税金を投入する対象ですが、雇用が生まれることで税金を納め、新しいものを生み出す側に回ることができます」と大熊さんは話します。

この全国に広がるネットワークをいかして、地域の農産品を活用し地域の味を出せる漬物や出汁、各地域特有の郷土料理などの開発にも今後取り組んでいく予定です。そして、将来的にはそれぞれの地域で生み出された「ばあちゃん」の味を一堂に介したウェブ上のショッピングモールも開発したいと考えています。また同じく全国のネットワークをいかした「ばあちゃん新聞」が11月より開始しました。全国のばあちゃんの知財、文化、歴史などを次世代に残していくものになっています。こちらも企業からの関心が高く、新聞の購入やスポンサーの問い合わせ等が続いていると言います。

使命は何歳まででも働ける仕組みづくりとそのための問題提起

「協働の事業を始めて、おかげさまで商品も人気が出て、地域の高齢者の雇用も行い、当初の目的を果たせてはいると思います。このまま現状に満足して維持していく、もしくはよくやりましたで事業を終わりにすることもできると思います。でも私たちは地域の、そして社会の課題を扱っている以上、まだやることがあると思っています」。事業をしてきた大熊さんが現状一番課題に感じているが、雇用に関する法律が75歳以上の高齢者を雇うことがあまり想定されていないこと。そのための仕組み作りや問題提起を行なって行くことが、会社としての役割だと感じています。

すでに地域ではさまざまな場面で手伝ってもらったり、認知が広がったりしていますが、まずは年間売上1億円を目指しています。「うきは市の売上規模上位の事業者となることで地域の見方がさらに変わりますし、また全国展開のスピードも早まると思います。そして自分たちの世代だけでは解決が難しい問題だからこそ、次世代への引き継ぎも視野に入れていく必要があります」と大熊さんは事業にかける熱い思いを話してくれました。