地域課題を解決するプラットフォームである地域商社として全国展開/株式会社ファーマーズ・フォレスト代表取締役松本 謙さん

広大な土地と施設の再生からスタート

宇都宮駅から車で30分弱のところにある、46haの滞在体験型ファームパーク「道の駅うつのみやろまんちっく村」。広大な敷地の中には農産物直売所や、飲食店、体験農場や森遊び、そして温泉やプール、宿泊施設まであります。元々ここは1996年に宇都宮市が農林公園としてつくり、第3セクターが運営していました。その後、民営化の動きがあり、株式会社ファーマーズ・フォレストの松本謙さんが滞在体験型と目的型の農村拠点、そして「おいしい楽園」という再生コンセプトで提案。民営化移行後の指定管理者に選ばれたところから、松本さんの地域課題解決の取組は始まります。「このろまんちっく村で、地域課題を解決する仕組みをつくり、地域活性化のモデルを作らないといけない。」その思いで、松本さんは後の「地域商社」と言われる事業の礎を築きます。

商流をつくり、人をつなぎ、場もつくり、情報発信も行う

最初に取り組んだことは、一次産業の出口戦略における課題解決でした。宇都宮のアンテナショップの運営を受託したことで、郊外と街中という2つの出口ができ、さらに市内外に多店舗構えることで、自分たちの販路で地域の農産物を集荷し、販売する仕組みを作りました。さらに、売れ行きによっては生産者へフィードバックをしながら一緒に商品を改変していくなど、店舗を生産者や事業者のテストマーケティングの場としても活用。また地元の生産者と加工事業者をつなぐなど、生産者が加工できる仕組みもあわせて構築しました。

また、2012年にろまんちっく村を道の駅化。多店舗展開や道の駅化には、農産物のある程度の量が必要になるために中規模流通の仕組みも構築。地域ごとに集荷所を設け、独自の手法で自社集荷配送と首都圏などのエリア外への中規模商流の仕組みを構築しました。自前の物流というのは、儲けを出すことが難しいですが、松本さんは「もちろん物流だけでは赤字になるけど、これがあると生産者のエリアも集められる量も拡大する。プロフィットセンターとコストセンターを分けて考える必要がある」と話します。

このようにリアルな商流づくりをしていきながら、その一方オンラインでの商流づくりも行って来ました。2010年に小さい冊子から始めたのが、栃木をギフトするというコンセプトの「トチギフト」。現在はECを中心に運営されています。また、このほかに生産者が苦手とする情報発信にも松本さんたちは積極的に取り組んできました。地元のラジオで松本さんが冠番組をもち、10年間、地域の情報や新店舗や新商品の紹介、生産者の紹介など地域を伝える総合メディアとしての役割も担って来ました。

地域課題の解決の1つとしてアクティビティツアー

他にも「えにしトラベル」というブランドで第2種旅行業の免許を取得し、地域の課題を解決するために道の駅を訪れたお客さんを地域に連れ出して一緒に課題解決を行うようなアクティビティを始めます。これは一元客を一元で済ませない、地域の魅力を知ってもらってリピートしてもらう仕組みづくりにもなりました。最初は生産者の圃場に連れ出し、農産物を味わってもらうことからスタート。そうやって生産者をプレイヤーとして巻き込んでいくと、「実は摘花のシーズンに人が足りない」など困りごとが出て来ます。そしたらそれをツアーにしていく。当社の課題解決型ツーリズムは「大谷石採石場跡地を活用した地底湖クルーズ」などの象徴的なツアーをはじめ、「茶畑再生」「獣害対策」「間伐促進」など様々な課題解決をツアー化しました。意外とこれらが地元の方にも好評で、もっと地域を知りたいというニーズがあったことがわかったそう。ろまんちっく村は、年間約150万人の利用者で賑わいますが、日常的に利用する地元の方と観光客というハイブリッドな客層になっています。

地域商社総合事業として全国展開とスケールアップ

そしてこの地域商社のモデルを他の地域へ展開していきます。2016年に沖縄に展開を開始し、現在ではうるマルシェなど県内に複数の拠点を設けています。そのほか長野や福島、奈良、神奈川、埼玉など全国に広がってきています。他地域へ展開した理由は、事業継続性を担保するため。1つのエリアに集中すると、成長には限界があり、さらにそのエリアでリスクが発生したときには事業リスクが高まります。また、他の拠点で販売したり、テストマーケティングを行ったり、地域拠点が増えることのメリットは数多くあります。さらに自治体間をつなぎ、商流だけではなく文化や人的交流の仕掛けも行って来ました。

今まで事業に必要なものは他拠点展開も含めて、すべて直営にこだわり、農業から小売流通、醸造、旅行、コンサル、クリエイティブまで自社で総合事業展開するファーマーズ・フォレスト。
しかし、全国津々浦々の地方創生を加速させるためには、スピード感を以って業界の裾野を広げる必要があると言います。例えば、自分たちが参入しないような地域の地域商社などとネットワークを結び、広域ローカル経済圏をつくっていく。地域スタートアップにCVCとして投資を行い、業界の枠を超えた発想と協業で新しい仕組みを加速させていく。松本さんは「この先、もっとスピード感を持ってスケールを拡大していきたい。だから企業理念を『LOCAL&INDIVIDUALITY×TEC~柔軟な発想と解決力で地域活力を創造するイノベータ―~』と刷新しました」と話し、これからのさらなる進化が期待されます。