森林レンタル事業で森林の新たな価値を創出/株式会社シシガミカンパニー代表取締役田口房国さん

森林レンタルという森林活用の新しい道

名古屋から車で約90分、岐阜県加茂郡東白川村。民家を抜け15分程山道を進むと、広大な森林地帯が姿を表します。村の面積のうち約93%が山林であるこの場所で、林業・製材業を営む「株式会社山共」。2007年から、3代目として代表取締役を務めている田口房国さん。田口さんは、木材の市場価値の低迷や補助金への依存を余儀なくされる厳しい現状に直面し、林業だけでの事業展開に限界を感じ、新しい可能性を模索していました。そして2019年、社会にコロナ渦が到来し、田口さんの森林レンタルサービス「forenta」への取組みが始まります。

製材屋に生まれた田口さんは、幼い頃から祖父に連れられ、よく山を訪れていました。森林レンタルサービス「forenta」の構想のきっかけは木材研修で行ったドイツ。ドイツでは、森林が人々の生活に密接に結びついており、誰もが自由に森に出入りし、ハイキングやバーベキューを楽しむ文化が根付いていました。その姿に衝撃を受け、田口さんはドイツのように、一般の人が享受できる森林の在り方や文化が羨ましく感じ、「日本では国の2/3を占める森林。その豊かな自然を多くの人に触れてほしい。」そんな思いから、森林レンタルサービス「forenta」を開始しました。

全国展開を通じて、森林と人を繋いでいく

森林レンタルサービス「forenta」を始めた背景には、アウトドアブームの高まりがありました。田口さんは全国のキャンプ場が満員に近い状況であると知り、予約競争や周囲の喧騒に縛られずに、好きな時に森林を使ってもらえるのでは、と自身の所有する17区画の山から森林レンタルサービス「forenta」をスタートしました。利用する方は、年間契約で森林をレンタルすることで、いつでも好きな時に森林に訪れ、自らの手で居心地の良い森林空間を作ることができます。キャンプや焚火、森林浴を楽しみ、落ち葉や丸太を活用したブッシュクラフトを行うなど、自分専用のプライベートな森林空間を楽しむことができます。

森林レンタルサービス「forenta」では、過度な伐採や整地を行わず、自然の姿のまま森林を貸し出すことで、環境負荷にも配慮しています。事業化までの準備期間は約3か月。WEBサイトの構築や仮設トイレの設置、内覧会の実施を経て募集を開始すると、わずか1か月で約440組の応募が集まりました。これまで、木材生産のみによってお客様から対価をいただくことには、難しさを実感していた田口さんでしたが、「森林を傷つけずに、森林を大切に育てながら、森林空間を貸し出すことでお客様に喜んでいただける。ここに持続的な森林経営のヒントを感じた。」と話します。

現在、岐阜県の直営エリア1か所に加え、フランチャイズ展開により北海道から鹿児島まで20 エリアが運営されています(2024年12月現在)。フランチャイズ展開のきっかけは、他の林業経営者から寄せられた「自分の森林でも同じサービスを提供できないか」という問い合わせでした。森林は所有しているが、何らか活用したいと捉えている方が多いのが現状。そこで、田口さんは、同じ課題を抱える全国の林業経営者にとって、森林経営がうまくいく新たなヒントになるのでは」と考え、フランチャイズを開始。「forenta」は、プロモーションや運営ノウハウの提供、必要書類の情報共有などを通じて全国の展開を支援しています。今では、岐阜県だけではなく、全国の森林で、森林を育てながら、森林を貸し出す森林レンタルサービス「forenta」で、多くの人がプライベートな森林空間を思い思いに楽しんでいます。

更なる事業の飛躍へ、新会社を設立

森林レンタルサービス「forenta」を開始して約3年、それまで計画を立てずにただただ突っ走ってきた期間でした。田口さんは事業の分析をしっかり行い、今後の方向性を明確に出したいという思いで、エグゼクティブプランナーの派遣を活用しました。田口さんは「プランナーとともに経営分析を行い、事業の強みや今後の課題を再確認できたことは大きな一歩だった」と話します。当初、新会社を設立する予定はありませんでしたが、木材生産やモノづくりを主体とする「株式会社山共」と森林レンタルサービス「forenta」との特性の違いに気づきました。その気づきをきっかけに、森林ベンチャー企業として、森林レンタルサービス「forenta」事業を進める「株式会社シシガミカンパニー」を設立しました。

森林を次世代に胸を張って引き継げる財産に

シシガミカンパニーは、多くの人が森林の恩恵を享受できる社会を目指す森林ベンチャー企業として、森林レンタルサービス「forenta」だけでなく、森林資源を活用したトリュフの栽培、また森林浴をはじめアクティビティの充実など、新たなチャレンジで、森林の更なる可能性を模索しています。田口さんは「forentaを通じて、視点を変えるだけで森林は無限の可能性を持つフィールドになると実感した」と話します。現在、森林レンタルサービス「forenta」は12都道府県で展開中。次の目標は全国都道府県への拡大です。プライベートな森林空間を身近に持つことが、人々のウェルビーイングにつながるとも考え、その受け皿として森林レンタルサービス「forenta」の取組を広げていきます。

最後に、田口さんには全国の林業経営者の方への思いも。「森林は資産であるがゆえに所有意識が強い。しかし、forenta事業ではその意識を共有意識に変えた。自分の山だけど、自由に使っていいよ、という考え方が広がれば、森林の在り方が変わる。事業の形は人それぞれですが、森林経営に自由度が生まれることで、日本の森林や社会そのものが変わるはずです。」と話してくれました。森林資源の新たな可能性を追求する田口さんの挑戦は、これからも続いていきます。