海ぶどうに可能性を見出し養殖業で創業

沖縄本島最南端の糸満市にある「海ぶどう農園 海ん道」。海ぶどうの養殖・販売に始まり、「海ぶどうソフト」などのオリジナル商品の販売や飲食店の運営、海ぶどう摘み取り体験、さらにはキャンプ場の運営まで幅広い事業を展開し、多くの観光客を惹きつけています。海ん道を経営するのは、現在代表を務める山城由希さんのお父様が立ち上げた「株式会社日本バイオテック」。18槽の海ぶどう養殖で創業しましたが、山城さんが「まだあまり知られていない、でも魅力的なこの食材を世の中に広めたい」と2002年に事業に参画。以降、「海ぶどうを世界の食材へ」という想いで事業を拡大させていきました。

市場開拓と生産量拡大で経営基盤を強固に

山城さんが参画した当初は赤字経営で、経営基盤の構築が当面の課題でした。当時東京に住んでいた山城さんは、首都圏の飲食店などへ体当たりで営業をかけて販路を拡大させていきました。持ち前の挑戦心で順調に市場は開拓できたものの、次は、生産が追いつかないという課題に直面します。台風で養殖場が損壊したり海ぶどうが海水に溶けたりと、農産物ならでは困難もありました。たびたび沖縄を訪れ、県内の生産者を回り仕入れを強化してはいたものの、需要に応えるには自社の生産能力拡大が急務でした。しかし、その実現には、生産現場で働く従業員のモチベーション向上が不可欠です。

「現場の近くで経営しなければ、従業員はついてきてくれない」と考えた山城さんは、2009年に沖縄への移住を決断。自ら生産に携わる中で従業員と信頼関係を築きながら、養殖槽を増設して生産量を拡大し、事業の安定化と拡大を図っていきました。

BtoCへのシフトで海ぶどうの価値を再認識

生産拡大と同時に山城さんが注力したのが商品開発です。県の工業技術センターに相談しながら自ら試行錯誤を繰り返し、海ぶどうの粉末やエキスといったオリジナル商品を生み出しました。また、個人向けに単価の高い小分け商品を作り、ロゴやパッケージデザインでブランド化して価値を高めていきました。

さらに成長を加速させるため、2019年には6次産業化の認定を取得します。その補助金を活用して、台風でも損壊しない頑強な生産施設を整備し養殖槽を100槽にまで増設。安定生産が可能になり、生産高も大幅に向上しました。

ところがその後、新型コロナウイルスの流行で観光収入や飲食店向けの売上が激減します。生産を止められない中で事業をどう継続させるか。考えて出した答えがBtoCへのシフトです。「私が海ぶどうを通じてどんな価値を届けたいのかを一般のお客様に向けて言語化し、オンラインショップやクラウドファンディングなどで発信しました」。

これが沖縄ファンの心を掴みます。売上高がさらに拡大しただけでなく、お客様からの応援メッセージも届くようになりました。「多くの人の愛情を受けて喜んでもらえていることを実感し、海ぶどうの価値を再認識しました。そして、これからはもっと自分たちから価値を発信していこうと決めました」。キャンプ場や海ぶどう摘み取り体験など観光客に向けたコンテンツを充実させ、2023年には観光事業部を新設して人材を採用。これまで生産を担う食材事業部が兼務してきたお客様への「おもてなし」を強化しました。

多くの仲間とともに沖縄の価値を広めていく

生産、出荷、接客、管理と各部門に人材を配置し、海ん道の運営体制はより強固になりました。しかしさらなる事業成長を遂げるには、これまでのようなトップ主導型ではなく、従業員が自ら考えて力を発揮し、一つの目標に向かってともに価値を作る組織へと成長する必要があります。山城さんは、エグゼクティブプランナーである庄司さんの力を借り、2023年から2年かけてチームビルディングに取り組みました。目指すのは、共通のビジョンのもとで動く「キャンプファイヤー型組織」です。そこで庄司さんは、従業員全員が「どんな海ん道にしたいか」を考え意見を出し合うプロセスを重視しました。

議論を重ねるうちに、当初は消極的だった従業員が主体的に意見を発するようになり、それらの意見から「海ん道スピリット」が誕生。多様な人材が団結して一つのゴールを目指す礎が築かれました。また、目的と目標、個々の役割を明確にしたことで、従業員一人ひとりがスキルを最大限に発揮できるようになりました。

「今では、従業員の皆さんが主体となって『海ん道スピリットに基づく行動ができているか』という振り返りの場を設け、自律的に議論をしています。その様子を見ると、行動が“集団” から“組織” に変容したと感じます」と庄司さん。山城さんも、「この2年で主語が従業員自身に変わりました」と確かな変化を実感しています。

2024年には飲食店を開業し、複合型体験施設へと昇華した海ん道。次の目標は、海外輸出で価値をさらに高めると同時に、地域との連携でコンテンツを拡充することです。さらには、離島など沖縄の他地域にも同様の事業モデルを展開し、地域の人が活躍できる産業を作っていきたいという山城さん。

「海ぶどうは、沖縄の地だからこそ育つ地域資源です。商材としての価値が高く、さらに雇用も生み出し続けることができるという産業としての価値もあり、魅力が尽きません。海ん道もまだスタート段階で、これからも無数の展開が考えられます。ただ、それは私たちだけでは実現できません。地域の方や県外の方とつながりながら、『海ぶどうを世界の食材へ』と育てていきたいと思います」