美容と健康を追求してたどり着いた発酵温浴
発酵させたヒノキパウダーで身体をあたためる女性専用の「発酵温浴nifu」。元美容師の片山裕介さんが代表を務める「株式会社テーブルカンパニー」が2014年に新宿で直営店の運営を開始し、都市部の女性の人気を得て、現在は関東を中心に10店舗を展開しています。20代の頃にオーストラリアのスパで働いていた片山さんは、現地で自然素材を活かした美容・健康サービスに出会い、中でも心身を深部からほぐす温浴事業に着目していました。その後、知人から聞いた発酵温浴事業に可能性を見出した片山さんは、このビジネスモデルをブラッシュアップさせ、日本の森林資源を活用したnifuを自ら立ち上げました。
同業他社と比較すると高価格のnifuですが、それでも多くの女性に選ばれている理由は、プロダクト自体の品質の高さに加えて、ヒノキパウダーの原料となる「おが粉」の生産と調達の背景に、奈良県吉野郡吉野町の「再生」というストーリーがあることです。
地域課題を解決できる事業にこそ価値がある
高品質なおが粉を調達するために初めて吉野を訪れた時、片山さんは、かつて林業で栄えた地域の衰退を目の当たりにします。住民に話を聞くと、多くの課題が浮かび上がりました。人口減少による林業従事者の不足、間伐されず荒れてしまった山、潰れていく製材所。間伐されたとしても、流通に適さない木は搬出コストがかかるためにその場に放置され、森林がさらに荒廃するという悪循環も起きていました。
以前から美容や健康の本質的価値を追求してきた片山さんは、この課題解決の一端を担うことにこそ事業としての価値があり、やる意味があると感じました。「プロダクトだけでなく、素材の調達過程にも人が幸せになるプロセスがあればお客様の満足度はより高まるはず」と、nifuを通じて吉野の課題に向き合うことを決心。東京から吉野に足繁く通い、現地の課題に耳を傾けながら、地域の林業従事者と共に枝打ちや間伐、林地残材の搬出や加工に汗を流してきました。
活動を進める中で明らかになったのが、吉野で美容素材に適したおが粉を安定的に入手することは困難だということです。ほとんどのおが粉が集成材の製材時に発生するもので、接着剤や防腐剤などが混ざっているためです。持続可能な供給体制を築くため、片山さんは2022年に古い製材所を譲り受け、東京と吉野の二拠点生活をスタート。自社で間伐材や林地残材からおが粉の生産・加工を始めました。さらに、サロンで使用済みのおが粉は、農家や畜産業者との連携によって堆肥や敷料として再利用する仕組みも整えました。
未利用資源を活かした商品開発を加速
食堂事業の順調なスタートを受けて、BtoCの横展開も始まりました。現在は吉野に現地法人「株式会社nifu」を設立し、木材以外の地域の未利用資源の利活用にも挑戦しています。例えば、地元の酒造メーカーや農家と協業し、吉野の耕作放棄地を活用して生産・収穫した酒米で甘酒を開発しました。nifuで販売したところ好調に売り上げを伸ばし、酒造メーカーで専属の人材が採用されるほどの効果を生んでいます。
他にも未利用資源を活かした商品を開発し、ふるさと納税の返礼品として展開中です。新商品開発や新事業にはリスクも伴いますが、地域と共に挑戦することで信頼関係は深まり、協力者も増えていきました。地域の人々だけでなく、nifu の店舗スタッフにも当事者意識を持ってもらうため、吉野の山での仕事体験や商品開発に関わる機会を設けています。お客様の声を聞き、吉野のストーリーを伝えるスタッフは、都市部と吉野をつなぐ重要な存在。実際、nifu で吉野のストーリーを聞いたお客様やSNS での発信で興味を持った若者が吉野を訪れてくれたこともあります。こうして仲間が増えた今、製材所は地域の林業従事者や地域活性に取り組む住民、都市部から吉野に惹かれて活動を手伝ってくれる仲間たちが集まる共創の場としても機能し始めています。
事業の持続可能性を高め、活動を次世代へつなぐ
「nifuの売上を地域や山に還元するという循環を目指したい」と片山さん。その実現には、事業のスケールアップが不可欠です。そこでnifuをフランチャイズ化させ、理念に共感する人との繋がりの拡大、そして店舗数の拡大を目指しています。また、次に展開するサービスを開発するために、エグゼプティブプランナーの片桐さんにアドバイスを求めました。さまざまな地方での商品企画経験を持つ片桐さんと議論を深める中で方向性が明確になり、nifu を吉野で総合的に体験できるツアーの展開など新たな施策の検討も進んでいます。
2023年と2024年には地域循環や環境保全に関連するアワードに挑戦し、数々の賞を獲得しました。社会的な評価を得られ、認知拡大に繋がっただけでなく、片山さん自身が「事業が単なるエゴではなく、地域の資源循環に真に貢献できている」と再確認でき、姿勢を正す機会になったといいます。
高齢化が急速に進む吉野では、地域特有のしがらみや世代間ギャップなど中に入り込むほど見えてくる問題も多く、課題解決に向けた取り組みは一筋縄ではいきません。しかし、「やがて世代交代が進み、町は再生していくものだと感じます。その時に備え、私たちの後に続くプレーヤーを増やしていきたい」と前を向く片山さん。その理念に共鳴する人との繋がりの場として設立した「Yoshino Village Network」では、メンバーが竹林整備や宿泊体験の企画・運営などを通じて吉野に関わってくれています。この多くの仲間と共に、テーブルカンパニーは何十年も先の未来を見据え、事業を通じて人も自然も美しくする循環に挑戦し続けています。
