長門市俵山地区の活性化を目指して

古くから米や栗の産地として知られる山口県長門市俵山地区で、栗やブルーベリーなど果樹の生産・加工を営む津田農園の3代目代表、津田浩利さん。ジェラートの製造・販売や直売所・カフェの運営なども手がけ、地域内外から多くのお客さんを呼び込んでいます。

俵山は湯湯治「俵山温泉」や歴史的な寺社仏閣でも知られています。津田さんは、観光協会としての位置付けにある団体「たわらやまの旅と未来会議」の副会長として地域活性化に向けた活動にも参画し、会長である藤永義彦さんと共に、豊富な地域資源を最大限に活かしてビジネスという観点からまちづくりを一歩ずつ進めています。

加工品販売やカフェ運営が収益の第二の柱に成長

農学部卒業後、JICA 海外協力隊や酒造会社での研究職を経て、大学院でブルーベリーを中心とする果樹研究に勤しんだ津田さん。学位取得後は「研究よりも現場で生産に携わりたい」と考え、2015年に地元で就農して家業を継ぐことを決意します。その背景には、過疎化が進む俵山の現状や藤永さんたちの活動を見聞きする中で高まっていた地域貢献への思いもありました。

就農当時の津田農園では、津田さんのお父様がナシを中心にクリ、ブドウの生産を手がけ、栗弁当の製造・販売など6次産業化にもすでに取り組んでいました。津田さんはそこに研究者としての知見を活かし、ブルーベリーやブラックベリーの栽培を始め、ジャムやワインなどの加工品の製造にも着手します。一方、収益の柱だった栗弁当は、製造に時間と手間を要することから継続が困難な状況にありました。そこで津田さんは、エグゼクティブプランナーの宮崎秀和さんに相談し新たな収益の柱づくりに乗り出します。

打開策となったのは、朝採れフルーツを使ったジェラートの製造・販売です。2022年には、自社施設内に加工場とカフェを新設しました。リピーターを中心に売上は順調に伸び、現在では、主に土日祝の営業で生産部門と並ぶ収益を上げるまでに成長しています。「ジェラートをきっかけにフルーツのおいしさを知ってもらい、果物の購入にもつなげたい」と津田さんは話します。

今後は、原点であるクリの生産にも注力する計画です。猛暑や病害虫など自然との戦いは厳しいものの、防除に力を入れて生産量を回復させたいという津田さん。クリの産地である俵山の誇りを取り戻すべく、近隣農家との連携による俵山ブランドの加工品製造・販売計画を宮崎さんと進めています。

地域一体となって目指す俵山温泉の再生

農園の変革に先立ち、地域では俵山温泉の再生に向けた取り組みが進められていました。1970年代には年間70万人の入湯客で賑わった俵山温泉ですが、現在は約10万人にまで減少し、高齢化と過疎化によって空き旅館や空き店舗が目立っています。こうした状況に2000年代から危機感を抱いていたのが、当時長門市役所の観光課長だった藤永さんです。2009年には温泉街との連携による地域活性化を目指しNPO法人を設立。しかし、拠点が温泉街から離れていたこともあり、地域との足並みはなかなか揃いませんでした。

そこで2020年、温泉街の空き店舗を拠点に「株式会社SDWORLD」を発足させます。これは、地域づくりから「地域経営」というビジネスへの昇華を目指す山口県の政策とも連動する動きです。代表を務める藤永さんの、行政や地域とのネットワーク、そして「自分が地域を活性化させる」という強い意志が推進力となりました。募集株式方式で地域に出資を募ったところ、想定を上回る資金が集まり、温泉街の再興を願う地域住民の期待も目に見える形で表れました。 2022年には、地域資源の最大活用を目指し「たわらやまの旅と未来会議」を設立しました。活動資金の一部には、宮崎さんの紹介でつながった森林ベンチャー「シシガミカンパニー」の山林レンタル事業による収益を充て、持続可能な運営体制を整えています。

温泉街全体で描く「まちごと旅館事業」が始動

2025年10月には、温泉街を一つの旅館に見立てる「まちごと旅館事業」が始動しました。これは、経営者の高齢化などにより運用しきれなくなった旅館の空き部屋を有効活用し、新たな宿泊客を受け入れる取り組みで、地域の銀行や企業が参画して設立した「株式会社俵山クリエイト」が事業運営を担います。

しかし、課題は少なくありません。人件費や燃料費の高騰に伴い、週に3~4日程度の営業にとどまる旅館が増え、今後さらに経営が圧迫されれば、営業時間の短縮や料金の値上げも余儀なくされます。こうした状況下で「まちごと旅館」を実現するには、経営者である地域の人々との合意形成が不可欠です。そこで、その調整役を2025年に発足した一般社団法人「たわらやま未来デザイン」が担い、「たわらやまの旅と未来会議」の活動を引き継ぐ体制を整えました。宿泊だけではなく空き旅館を活用した飲食店やカフェ、体験コンテンツなど、温泉街全体を舞台にした多様な構想を描いています。

俵山の豊富な地域資源や近年の活性化に惹かれ、Uターン移住者や地域おこし協力隊に参加した若者など、この数年で約30人がこの地に移り住みました。地域には新たなコミュニティが生まれ、古民家を再生したシェアハウスやカフェの運営といった活動も活発化し、移住者が俵山を支える重要な担い手として活躍しています。

温泉旅館や津田農園の直売所・カフェ、そしてシェアハウス。多様な地域資源を連携させ、俵山というまち全体をビジネスに活用するこの挑戦は、本格的なスタートを切ったばかりです。