生産技術と物流、情報力の強みを活かし地域に貢献する課題解決企業へ/株式会社クラベルジャパン 代表取締役 平田憲市郎さん

佐賀県唐津市で約70年続くカーネーション農家「株式会社クラベルジャパン」。約2000坪の園地で年間80万本のカーネーションを生産し、札幌や沖縄を中心に国内約20ヶ所の市場に販売しています。国産カーネーションではトップシェアを誇り、2016年には前身である平田花園から法人化を果たしました。ところが2020年、新型コロナウイルス感染症拡大によって緊急事態宣言が発令。折しも、卒業式や入学式、母の日などで売上が最も伸びる時期に物流がストップし、準備していた花が売れないという事態に。前年同月比で売上高8割減という窮地に立たされた3代目の平田憲市郎さんは、事態を挽回すべくさまざまな挑戦を始めました。

コロナ時代に適したビジネスの形

花き業界では、多くの事業者がコロナ禍で売れなくなった花を花束やアレンジメントに加工してインターネットで安く販売していました。しかし平田さんはこう話します。「価格を下げるということは、花を作る従業員の給料を削るということ。そんなことをするわけにはいきません。そこで当社では、花束やアレンジメントのキット商品を販売しました。するとAmazonの売れ筋ランキングに入るほど売れて、これが従業員の励みになりました」。

また、コロナ禍で「花を作って届ける」というビジネスが立ち行かなくなり、「花の弱み」を痛感したという平田さん。新たに「お客さんに来てもらう」というビジネスモデルを立ち上げました。これは、ハウスの1区画をお客さんに貸し、実地指導を行いながらカーネーションの栽培から収穫までを体験してもらうというもの。「唐津花の大学」と名づけ、7月からSNSや新聞で募集を開始。外出がままならなかった時期に、三密を回避しつつ自然と触れ合ってリフレッシュできるこのサービスは時代のニーズにマッチし、遠方からの申し込みも含めて21組が集まりました。「2年目は25組、3年目の昨年は7組でしたが、『減った』とは捉えていません。これは、みなさんの日常がもとに戻り、区画が役目を終えたということ。それだけコロナ時代に合った取組だったことが分かりました」と平田さん。

現在平田さんが注力しているのは、国内に流通しているカーネーションの品質を上げること。実は、市場のカーネーションの7割は品質が安定していないコロンビア産。国産品は減りつつあります。しかし、輸入対国産という図式は平田さんの頭にはありません。「輸入がなくなれば国産を選んでもらえるのかというと、そうではなく、むしろカーネーション全体が衰退しギフトとして選ばれなくなるというリスクが高まります。旅行やグルメなど、他のギフトの中から花を選んでもらうために大事なのは、7割を占めるコロンビア産の品質を上げることです」。平田さんは、コロンビアの農家に栽培技術を伝えて品質向上に努めており、近々コロンビアに現地法人を設立する計画もあります。

国産唐辛子の生産・商品開発にも挑戦

コロナ禍で立ち止まったことにより、気づきも得られました。「毎年、母の日になるとパート従業員が花束を作って全国に発送していたのですが、気付けば、母の日でありながらパートのお母さんたちが一番疲弊していたんです。こんなに身を削ってやることではないと考え、一切やめました」。そして、減少した売上分を補うため、以前から興味を持っていたという唐辛子の生産に着手。情報を収集した結果、市場に流通している唐辛子の99%以上が中国・韓国産であることから、国産唐辛子のニーズが高いと判断したのです。また、生産に機械が不要であること、重量が軽いため物流コストがかからないことも決め手となりました。一年目は試行錯誤しながらの生産でしたが、2年目には規模を2倍に拡大。現在は夏に7アール、冬に1アールの規模で生産し、一味・七味唐辛子などの加工品を中心に、スーパーや空港などに卸しています。

ただ、昨年は台風で一晩にして唐辛子が全滅するという問題も発生しました。自社だけで生産規模を拡大するリスクの大きさを感じた平田さんは、契約農家との協業をスタート。各地に点在する契約農家が生産した唐辛子を同社が有する既存の物流システムで回収し、同社が開拓した販売先へ配送、農家には契約金額を支払うシステムで、「売り先が欲しい農家」にも「国産唐辛子が欲しい販売店」にもメリットの大きいwin-winの関係を築いています。

契約農家が全国に広がりつつある今、この取組を新たな商品開発や観光、農地の活用に広げるべく、生産者や飲食店、消費者などから成る「唐津ピリカラ協会」を設立しました。さらに、佐賀県が推進する「さが農村イノベーション推進事業」のサポートを受け、クリエイターとの協業で缶入りの一味唐辛子をブランド化。赤唐辛子一味を「赤獅子」、青唐辛子一味を「青獅子」と名づけ、美しくデザインされたパッケージで国産唐辛子という新たな市場を広げています。

取組による効果は、農業だけでなく地域全体に波及しています。「収穫した唐辛子の選別や袋詰め、カーネーションの色付けなどの作業を地域の福祉事業所に委託しています。生産が増えるほど地域の仕事も増えていきます。生産者と地域とで協業し、一緒に良い方向に向かいたいですね」。今後は、3年後を目処に社内に福祉事業部を設置し、年間を通して安定的に作業ができる体制を整える予定です。

雇用を生み、地域活性化を目指す

クラベルジャパンは農家ではなく課題解決企業だという平田さん。生産だけでなく、卸業や6次産業化、他の事業者との連携などさまざまな事業に取り組んでいるため情報を得やすく、地域や業界の課題にも気づきやすいのです。「その間に入り、解決の役に立ちたい」と平田さん。その目線の先にあるのは、地域の活性化です。「地域活性化には何より人口を減らさないことが重要。そこを一番に担うのは雇用です。唐津に残る人材を増やすためにも、企業が利益を生み出せる仕組みづくり、人づくりをしなければならないと考えています」。70年間に培った生産技術と物流、情報力を武器に、天候に左右されない新しい農業のビジネスモデルを体現しています。