能登半島の魅力を最大限に活かした「農家民宿」が地域再生を実現/一般社団法人春蘭の里 前理事長 多田喜一郎さん

「春蘭の里」の誕生

石川県の北部、能登空港付近にある「春蘭の里」は、今から27年前、一般社団法人春蘭の里 前理事長である多田喜一郎さんが地域の衰退を恐れ、仲間とともに立ち上げた地域再生の活動から始まりました。まずは地域で採れた野菜を自ら販売するも、なかなか軌道に乗らず、ならば地場野菜を調理して味わってもらおうと、「農家民宿」の構想が立ち上がりました。多田さんの自邸を1軒目としてはじまった農家民宿はブランド化を進め、今では50軒にまで増え、全国屈指の修学旅行受入推進地区として大成功を遂げています。

豊かな地域資源を生かした農家民宿の魅力

春蘭の花が空気のきれいなところにしか咲かないことから、この地域を表現するのにふさわしいという理由で名付けられた「春蘭の里」は、珠洲市、輪島市、穴水町、能登町の4つのエリアから成ります。農家民宿は昔ながらの家屋を宿泊施設とし、地場野菜を中心に化学調味料や砂糖を使わず調理した家庭料理を輪島塗りの漆器で提供する等、規定はあるものの各民宿の個性と愛情があふれます。また、農業をはじめとしたこの土地ならではの体験を提供する農家民宿の魅力は、エリアごとにも異なります。田植え、稲刈りなど能登の米作り、きのこ狩りや農産物を使ったジャム作り、日本遺産認定のキリコ祭り体験、海に近いエリアでは海水浴やサップなども体験できます。地域資源の豊かさはもちろん、施設や立地の面からも修学旅行の受入地域として高評価を受けています。閉校した小学校を交流宿泊所として運営しているため、修学旅行時の教員の拠点を確保できる上、4エリアに広がる各農家民宿の距離もほどよく、教員の巡回もスムーズに行えるなどの利点が多くあります。

行政との関わり

27年前、多田さんは行政を頼らず地域住民の力で地域再生を実現しようと動きはじめ、徐々に規模を拡大する中で「一般社団法人 春蘭の里」を設立し、地域全体の統括体制が確立しました。昨今は行政側からお墨付きをいただき、新規加盟する農家民宿に対し、水回りや囲炉裏の改修等に補助金制度を利用できるほか、今後は水素発電の導入など、現在は行政の協力も得ながら運営しています。また、春蘭の里は「景観形成重点地区」でもあり、屋根瓦は黒、壁は白に統一するなど、石川県景観計画に基づいた美しい風景の維持にも貢献し、地域再生のみならず石川県全体の計画にも積極的に取り組んでいます。

インバウンドへの対応

長野県から富山県、そして石川県へと向かう列車旅のゴールデンルートは人気が高く、「能登の里山海山」が世界農業遺産に登録されたことも拍車をかけ、海外からの旅行者は年々増加しています。春蘭の里ではインバウンドへの対応を強化するためNPO法人ZESDAへ協力を仰ぎ、ホームページの翻訳や窓口業務を円滑に行うことができています。コロナによる規制も緩和され、今後より一層力を注いでいきたいと考えています。

「春蘭の里」のこれから

春蘭の里では地元の方々が農家民宿の役割を担うだけでなく、移住者による農家民宿への挑戦も後押ししています。毎年専門学校からインターン生を受け入れており、インターン経験後、地域おこし協力隊として移住し農家民宿を運営するなど、Iターン・Uターン含めこれまでに13名の方が県外・海外から移り住んでいます。地域再生を目指し27年前に始まった農家民宿は、見事に地域経済の循環を生み、人材確保にも繋がっています。そして、昨年20代の職員が3名加わり、春蘭の里は次世代にバトンが渡りました。多田さんのご長女である多田真由美さんは代表理事として能登の伝統を守りつつ、県外から移住した岡本千寛さん、大場永奈さんの貴重な視点を活かし、春蘭の里の維持・発展を目指します。東京から移住された岡本さんは、自身のような移住希望者にとってのパイプ役となり、さらには、観光資源を存分に活用した地域再生のモデルとして、能登から世界へ向けた情報発信にも力を注ぎたいと意気込みます。