「飛騨えごま」を守ることで地域にもたらされた活性化/有限会社萬里 飛騨えごま本舗 代表取締役 高橋敏成さん

飛騨の伝統食材「飛騨えごま」

飛騨地方で古くから食べられている「えごま」は、地元では「あぶらえ」と呼ばれ、おはぎや五平餅、煮っころがしなど日々の食卓や行事食にも欠かせない伝統食材です。韓国ではえごまの葉をキムチ漬けにするなど主に葉を食しますが、日本では種子を収穫し乾燥させたものをすりつぶして使うほか、種子から油を絞り「えごま油」として食します。山間部に位置する飛騨地方は、高低差による寒暖の差など地域によって環境が異なるため、昔からそれぞれの地域ごとに在来種を大切に栽培してきました。

地域一丸となって産地を守る

地元には「飛騨高山あぶらえ研究会」があり、えごまを栽培する農家が集まり、情報交換や勉強会などが行われてきました。年々えごまを栽培する農家が減り、飛騨えごまの衰退を危惧していた有限会社 萬里の高橋敏成さんは、平成27年に「飛騨えごま本舗」を立ち上げ、搾油機を導入しました。健康志向が高まる昨今、物忘れ予防やアトピーの改善、便秘解消などに効果のあるαリノレン酸を豊富に含んだ「えごま油」の価値は高く評価されています。しかし、これまで地域に搾油機を持つ生産者がおらず、種子のみを生産・販売してきたため、高橋さんの決断はその後の地域を大きく動かすこととなりました。

「えごま油」の生産による多くの好循環

えごまは収穫後、唐箕がけと天日干しを終えると、そこから洗浄、乾燥、ゴミ選別と、いくつもの作業工程を経てようやく種子として商品になります。えごまの収穫時期は10〜11月のため、収穫後の作業は昔から農閑期の仕事でした。冬場の冷たい水を使う洗浄作業はとても厳しく、ゴミ選別も骨の折れる手作業です。「飛騨えごま本舗」の設立後、地域の生産者からえごまを買い取り、洗浄作業等も一手に引き受け、搾油して商品化する仕組みが誕生しました。米よりも高値になるため転作する農家や、えごま栽培の新規参入者も増え、地域の所得向上に貢献しています。また障害者や高齢者の雇用など、農福連携の視点からも地域に好循環が生まれました。

自社経営の民宿にも追い風

高橋さんはご両親の代から50年続いてきた民宿を経営する傍ら、「飛騨えごま本舗」を立ち上げました。近年はインバウンド向けに新しいホテルが増えた上、コロナ渦を迎え、昔ながらの民宿は経営難に直面していましたが「飛騨えごま本舗」が軌道に乗ると、民宿も好転しはじめました。民宿は世代交代とともに「飛騨えごまの小宿 萬里」と名称を変更してリニューアル。えごまづくしの料理や、お土産用に搾りたての「えごま油」をセットにした宿泊プランも好評です。えごま油のブランド化により、この土地ならではのおもてなしという付加価値が付き、民宿経営にも希望の光となりました。

高齢活性化社会をめざして

近年ECサイトでは「えごま油」の定期便利用者も増え、さらにはふるさと納税の返礼品としても人気が高まり、常に需要と供給のバランスを考えながら歩んでこられた高橋さん。事業の急激な拡大よりも高品質な商品を丁寧に作り続けること、そして「えごま油」の人気をブームで終わらせないことを大切にされています。高齢化社会を迎えた今、日本人の健康寿命を伸ばし、「高齢活性化社会」が実現するよう、これからも地域の人々とともに歩んでいきたいとおっしゃいます。